TSU・NA・GI

●特別企画 ブレーンヒューマニティー 座談会
  能島裕介×倉谷明伸×石田太介×木下陽介
   子ども達への選択肢の提示〜希望をともに〜



能島
本日はみなさんお忙しい中、「TSU・NA・GI」の企画で、これからの教育のありかたについての座談会を行うことになり、HEP事務局長の石田君と被災児童支援事業部代表の木下君、これからフリースクールを作ろうとしている倉谷さんにお集まりいただきました。
 それでは先ず、子供たちが置かれている現状について、それぞれ何か感じられたた事ありましたら。

石田
普通に生活していた上では、あまり不登校というものは意識しませんでしたけど、HEP(Home Education Project)という活動を通して、学校における不登校の割合がこんなにも多かったのかということを、つくづく実感しています。

能島
不登校と関係するのはフリースクールですが、担当している倉谷さんはどう思われますか。

倉谷
ですから まだまだ今あるフリースクールとか、ホームエディケーションで対応できない子ども達というのが、かなりの人数いると思うんですが、そういう子ども達対して当会フリースクールが何をできるかをいろいろ考えていかないといけない思います。

能島
確かに支援を必要としている子ども達がいるという自体は現実にありますね。それとですね、被災した子供たちを支援しているラーニンというの関係があると思うのですけど。

木下
被災遺児ということで、不登校をしている子どももレインボーハウスに、集まって来ています。また、震災後から全然勉強をしなくなった。そういう感じの子も多く通ってきています。

能島
やっぱり不登校の原因というのは、いろいろありますよね。
●不登校の原因と様々な選択肢

石田
様々ですね。勉強ができなくて不等校になったり、いじめって問題も最近多いですし、皆全部理由が違って、何一つとして一括りにしてはいけないということが、一番難しいことじゃないですかね。 能島 これからの子ども達に対して、教育をして行くときの課題ということについて、皆さんどのようにお考えになっていますか。

倉谷
選択肢として、学校もフリースクールもホームエディケーションや当会のHEPなどが、子ども達の選択肢として、全てが充実して、子ども達に提供していければと思います。そのために、当会内でもフリースクール事業部とHEPの連携をとって、ブレーンヒューマニティーとしてフリースクールとホームエディケーションを提供していければと思っています。

能島
確かに今おっしゃられた「選択」という言葉が、1つのキーワードになってくると思うんですけど 特に不登校の子ども達の場合、学校に行くということと、行かないということ、それぞれの選択があると思うんです。それぞれに選択をしている子どもがいるというように、とらえる方がわかりやすいのだと思うんですが、そのあたり石田さんいかがお考えですか?

石田
選択という視点からお話しさせてもらいますと、確かに選択肢が多ければ多いほどいいと思うんですけど、例えば今の銀行も、僕たちが選択をすることによって自分自身の責任を負う。子ども達にも、これをこれからの時代は求めなければいけない。その求める度合いですね、今一まだよく分からないんです。例えば、HEPの講師として派遣され、僕たちは勉強を教える立場で、生徒に接するんですが、何を強制して、何をその彼のまま受けとめてあげればよいのか、僕にもいまいち分からないことです。ただ、学校へ行っても、行かなくても、自分で選択した場所できちんと学ぶ環境があるというのが、大切な事ではないでしょうか。

能島
震災遺児の子ども達のなかにも、勉強したい子どもと、したくない子どもとがいると思うんですけど、先ほど石田さんがおっしゃったような事柄について、どのように感じられてますか?

木下
勉強したい子、したくない子っていうのが両極端なんですよ。勉強したくない子どもは  遊びたいと、彼らが感じていたら、遊びの方向にもっていってやる。 それで、少し時間がたって、勉強をやろうかということで部屋に戻って、10分、15分くらい勉強して、それでまたしたくないから遊びだすっていう子がおおいんです。 レインボーハウスの方も色々な施設がそろっているで、いいと思うのですけど、そういう施設がもうちょっと県内に多くあればと思います。
●「遊ぶ」という体験と「学び」

能島
今、「遊び」という言葉が、話の中で出てきましたんですが、特にフリースクールの中でも「遊び」というのが、1つの教育の要素として大きな役割を持つと思うんですけれども、今後、フリースクールの方ではどういった取り扱いをされるんでしょう?

倉谷
そうですね、当会がフリースクールと言わずに、フリースクールと言ってる1つの意味として、フリースクールといってしまうと、学習というイメージがどうしても前にでてしまうという意識があって、当会としては学習を提供するのは、スタッフも学生が多く、補習事業部もありますので、簡単だとは思うんですが、これらの学習の提供もできるというのを底辺に置いた上でもっといろいろな体験的な学習や遊びや、色んな体験っていうのを提供していきたいと思います。

能島
それに対して、HEPの方は学習という部分に特化して活動されていますけれども、「遊び」ということをどのようにお考えですか?

石田
遊びと学習の兼ね合いということですが、やはりHEPといいましても人と関わるわけですから、まず、不登校になる子は中々勉強もしてくれないですね。不登校の子どもに勉強を教えるというのは講師と生徒との信頼関係が1番重要になってくると思うんです。  僕の行ってる家庭も、最初は勉強嫌いで全く勉強してくれなかったので、1ヶ月位一緒に遊んでいました。そして、テスト前を向かえて、ふと勉強やろうかといった時に、「いいよ」と前向きな姿勢を見せてくれた。信頼関係を結ぶ上で、「遊び」というのは絶対必要だと思います。

能島
遊ぶということと学ぶということが、一つの体験としては、同じ事柄だと捉えても差し支えはないと私は思います。特に、被災遺児の支援をしている「レインボーハウス」では、遊ぶ場所というのが充実していると伺っているのですけれども、どういった施設になっているんでしょうか?

木下
レインボーハウスの中には、様々な部屋があり、まず図書室にはパソコンが設置され、ゲームやインターネットを各自で見れるようになっていますし、パソコンでイラストを描いたりしている子供もいます。  それから、「学びの部屋」というのがあり、震災で配偶者を亡くされた男性の方の為の料理教室をしたり、お母さんが手芸教室を開いたり、しています。また、僕たちが子ども勉強を教える場所にもなっています。それ以外ですと、野球ゲームとかサッカーゲームの置いてある部屋もありますし、ぬいぐるみがいっぱいあって、そこで震災当時の話しをしたりする部屋もあります。また「アートの部屋」や、「音楽の部屋」などの部屋も充実していますね。尚、催し物を行ったりする、大きいホールもあります。  その他に面白い部屋ですと、「火山の部屋」という部屋があります。そこにはサンドバッグがあって、怒りをぶつけることのできない子どもが一人で、そのサンドバッグに怒りをぶつけたりします。また、「ごっこ遊びの部屋」というのがあって、震災当時の体験をもう一回、ミニカーの救急車とか消防車とかを使って、その時の思い出や悲しく辛いことを再現するといった部屋もあります。こういった震災遺児に特化した部屋ですと、親を亡くしたことについて、一人で泣きたいという子どもが一人で思いに浸れる「思いの部屋」や、「相談の部屋」があります。  そういった環境で、子ども達は自由にやりたいことをのびのびとやっている感じです。
●インターネット社会へのアプローチ

能島
レインボーハウスに様々な施設があるというこどですけれども、当会のスペースというのは、私たちの考え方によっては、1つの施設として捉える事ができると思います。  この阪神間には、当会のほかに様々な子ども達をサポートする施設があって、色々フリースクール等があると思うんですけど、倉谷さんはそれらの一部を回られたたんですね。その時のお話しを少しお聞かせ頂きたいですけれど。

倉谷
そうですね、関西圏の17校のフリースクールをまわらせていただいて感じたのですが、やはり、先ほどのレインボーハウスほど整っているところはどこもないんですけれども、設備の整ってないならないなりに工夫がされています。当会のフリースクールも、スペースはそれほど広くないですが、いろいろ体験を提供している場にしたいと思います。  また、フリースクールの活動内容ですが、現状のフリースクールは、代表の思いが表れていて、それによって、いろんな色があるのですが、反対にブレーンヒューマニティーのフリースクールというのは、そういった内部の人間の思いだけで作っていくのではなく、外部の一般の人の思いも集めた上でいろんな活動を決めていければという思いがあって、ホームページを立ち上げたんですけれども。

能島
今回、フリースクールの進め方について議論をする為のホームページを立ち上げたんですけれども、これは非常に全国的にもめずらしい試みだろうと思いますが、HEPの方でもホームページを開設してるんですよね。

石田
はい。ホームページを開設はしてるんですけど、やはりフリースクールと違いましてHEPの場合は、講師の悩みは個人情報ですよね。その個人情報をHP上で載せるということはやはりできません。ですが、一般的な子どもの悩み等はホームページの掲示板等で話し合いたいと思っています。

能島
不登校とか被災した子ども達とか、いろんな悩みとか辛さを抱えている子ども達がいると思うんですけども、石田さんがおっしゃったように、子ども達が自分の思いをコンピューター上に書きこめるような場が、あったらいいなと思うんですが、その点について倉谷さんは、どうお考えですか。

倉谷
今の段階では、フリースクールのホームページは、まだ保護者の方や大人の方の書き込みが中心になってしまってるのですが、反対にもっと子ども達を対象とした同じようなサイトを立ち上げて、もっと漢字や表現等とかをやさしくして、小学生、中学生が書き込めるようなサイトを別に作ってもいいのではないかと思います。検索エンジンの方にもYahoo Kidsや、子ども達で検索できるような物に登録して、もっと子ども達の意見を書き込める、例えばフリースクールとHEPの共同のサイトをブレーンヒューマニティーで立ち上げてくってのも面白いんじゃないかと思うんですけど。

能島
最近コンピューターが非常に普及してきてますし、特にインターネット上では、それぞれ自由に書き込めて、自分の思いをそのまま伝えることができるようになってきていると思うんですけど、その中ででも、HEPとフリースクールが活動していけたらと思います。
●ブレーンヒューマニティーとして出来ること

能島
私たち、ブレーンヒューマニティーでは、それぞれの事業部がいろんな関わりを持ってるんですけれども、それらを一つに融合できるのではないかと思っているんです。つまり、子ども達に対して、いろんな面から融合することができるのではないかということなんです。  ブレーンヒューマニティーでは、レクリエーション活動等を行っているレクリエーション事業部や、補習事業部もしているのですけれども、それぞれの事業部が共同しながら子ども達に多角的に関わっていくということが、私たちの中では可能になってくるだろうと思います。今までで顕著な例としては、被災児童に対してのレクリエーション活動ということを続けてきたのですが、その点で木下さんはどう思われますか。

木下
被災児童の子ども達は、何か不安を持って一日を送ってると僕は考えてます。そこで、一日でも遊びかレクリエーションを通すことによって、子ども達の心が、少しでも開いてくれたらうれしいと考えてます。

能島
先ほど話に挙がった、被災児童、特にレインボーハウスでの遊びの重要性ということと同じなのですけど、レクリエーションというのが子ども達の心を解放したりとか、気分を転換させるような役割を持つと思います。ちょうど1月にスキーツアーをやったんですけど、そのスキーツアーには、不登校の子ども達が3人くらい参加していました。そのツアーで、石田さんはリーダーをされてたんですよね。

石田
ええ、そうですね。僕の班ではなかったんですけど、レクリエーション活動といった学校とは違った部分で参加することにより、その子ども達も全く本当に学校にいってる子たちと変わらないような笑顔を見せていましたし、不登校支援という観点からもレクリエーション活動という面で子ども達の心を解放していくことは、大切になっていくんじゃないかと思います。

能島
私たちの設立趣旨の中に、私たちは子ども達の支援のために、知恵と力を結集するということが書かれているんですけども、今やってるHEPにしても、フリースクールにしても被災児童の支援にしても、レクリエーション、補習児童もそうですが、それぞれの知恵と力を結集して本当にいろんな面から、子ども達の支えになっていければと思っています。  私たちの強みは、それぞれのセクションがそれぞれの関わり方を持ちながら、尚且つ一つにまとまることができることだろうと思いますので、その力を結集してこれからも歩みを続けていきたいなと思いいます。ほんとに今日はありがとうございました。

(この座談会は、2000年1月13日に当会事務局において行われたものである)

 今回の座談会では、話のテーマが非常に多岐に渡った。しかし、その中にあって、一貫して言えることとしては、キーワードの一つに「多様化」という言葉が根底にあったのではないだろうか。
 現在、社会は多様化を志向し、社会はその方向性の中で動いていると言われている。今や社会における多様化、特に「価値観の多様化」抜きでは、社会を語れないとまで言われているのを聞いた事もある。
 子ども達が、自分らしく生きるために、自分たちで選択をするということが、昔であれば難しいこともあったが、今ではそれも受容されてきている。当然の事だと言えば、そうなのかもしれない。しかし、今でもその選択について、自らの求めるものがなく、悩んでいる子ども達がいる。それは紛れもない事実であろう。
 当会が様々な活動を通して、そういった子ども達に選択肢の一つを提示しいき、また、選択肢を多様化させる試みを、小さな歩みであっても続けていきたいものである。
 今回の座談会を横で聞いていて、今私が与えられている場にあって、出来る事とは一体何なのだろうか、とふと考えさせられた。

(ブレーンヒューマニティー 総務セクション 「TSU・NA・GI」編集長 川中大輔)

TSU・NA・GI第3号(2000/2/1発行)より