TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 18
〜あなたのためを思って・・・〜


 7月の毎土曜日、某ボランティア財団主催の「10代の心と向き合う仲間のためのベーシックコミュニケーショントレーニング」という4回シリーズの講座にかかわっていました。
 最初に財団の方から思春期の子どもとかかわることをテーマにした講座の依頼を受けた時、何をするかはたと考えてしまいました。おとな社会の10代の子ども達への対応を見ていると、親も、教師も、他の大人も、みんなが良い関係を持ちたいと思いつつ、でも何をどうしたらいいかわからない、いわばお手上げの感さえあります。多感なこの時期の子ども達はとかく扱いが難しく「10代は手に負えない」という神話さえある始末です。
 確かに思春期特有のトピックはあるものの、そうした「知識」を身につけるだけでは不十分だし、こう接すれば大丈夫!などという黄金律、万能のノウハウがあるわけでなし…。そこで、「子ども達について」云々するのではなく、むしろこれまで人生をやってきて、わかっているつもりの自分の人とのかかわりのあり方をおさらいすることから始めて、子ども達と向き合うための基本的なコミュニケーションスキルを学ぶ、つまり子どもと向き合おうとしている大人はどうなの?というスタンスでの講座を展開することになりました。
 「あなた」ではなく「わたし」に視点を置いて考えることで、いろいろなことが違った角度で見えて来ます。中学生の子どもが、不機嫌そうに帰宅して鞄を投げつけるように置くという状況のロールプレイでは、中学生の役割をとった参加者から「私は今まで親に対して直接こんな態度をとってはいけないと思っていたから、今初めてやってみて気持ち良かった!」というフィードバックがあったり、「自分の子どもそのままやってました」と息子になりきって彼の気持ちをかいま見た方など…。それぞれの参加者が、まず自分のスタンスを確認し、自分はどうしたいのかという所から出発することで、より双方向のコミュニケーションが可能になることを感じておられたようです。
 アリス・ミラーの『魂の殺人』という本があります。これは大人が教育という名のもとにいかに子どもを傷つけているかという内容なのですが、実はこの本の英語の題名は“For your own good”、つまり「あなたのためを思って」であるということの意味を改めて考えてみたいと思いました。

(関西学院大学社会学部 専任講師 川島惠美)

TSU・NA・GI第3巻第2号(2001/9/5発行)より