TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 16
〜大きくなるっていうことは・・・〜


 うちの子どもは「大きくなるっていうことは」(中川ひろたか・文 村上康成・絵 童心社刊)という本が大好きです。進学・進級という今頃の時期に読むのにぴったりの本で、“おおきくなるっていうことは みずに かおをながくつけられるってこと”、“たかいところから とびおりられるってこと”など、色々なことができるようになることが描かれており、次に“それもそうだけど とびおりても だいじょうぶかどうか かんがえられるってことも おおきくなるっていうこと”と続きます。そして、最後の方は“おおきくなるっていうことは じぶんより ちいさなひとが ふえるってこと”、“ちいさなひとに やさしくなれるってこと”、“おおきくなるっていうことは そういうこと”となっていきます。
 人は誰でも、生まれた時は、他の人の保護がなければ生きのびられないような依存しきった状態にあります。そして時と共に、身体的に、精神的に、知的に、そして経済的に自立していきます。つまり、自分のことは自分ででき、自己決定ができる独立した人間になっていく、まさしく、“おおきくなるっていうことは〜ができるようになる”という部分でしょう。けれども、人間としての成長を考える時に、自立は必ずしも最終的な目標ではないという見方があります。
 自立から更に成長と成熟を続けると、相互依存の段階へと進むと言われます。依存している人は「あなた」という他人に頼り、自立している人は「私」の責任や努力によって欲しい結果を手に入れますが、相互依存している人は「私たち」というパラダイムを持ち、自分の努力と他者の努力を引き合わせて最大の効果を出すのです。つまり、相手だけ、自分だけでなく、相手も自分も満足できる状態をつくろうとするということでしょう。つまり、自立するということは、何ができるかだけでなく、できないことをわきまえることだと言い換えることもできるかもしれません。“高いところからとびおりてもだいじょうぶかどうか考えられるってこと”です。できないならば、できる人に助けてもらい、同時に自分ができることで誰かの役に立つことは吝かではない、“ちいさいひとにやさしくなれる”という相互依存的な関係性があれば、その人間関係はとても豊かなものになるでしょう。皆さんの家族、夫婦というチームの中ではいかがでしょうか。成長の節目を感じることの多いこの季節、ご家族それぞれの「自立」と全体の「相互依存」について考える機会を持つというのもいいかもしれません。

(関西学院大学社会学部 専任講師 川島惠美)

TSU・NA・GI第3巻第1号(2001/4/20発行)より