TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 10
〜Tちゃんのこと〜


 9月の始め、M県の某国立少年自然の家で行われた2泊3日の不登校の中学生を対象としたキャンプ(男子6人、女子4人)にスタッフとして参加した時の話です。
 女子の中で、友達のMちゃんに引っ張られてキャンプに参加したものの、身体を動かすことが苦手、手放せない携帯電話が圏外、虫がいるなど予想外の状況でストレスが高く、それに対して「逃げ」をうとうとするTちゃんがいました。キャンプ場のトイレには虫がいてどうしても使えないと、2キロ離れた本館のトイレまで車で連れていってもらったり、体調不良を訴えバンガローにいたがるなど活動に参加することに消極的でした。同時に彼女は、Mちゃんが自分と一緒に行動することを期待していました。ところが、始めは何かと気遣っていたMちゃんも、身勝手さに嫌気がさしてきて別のメンバーと行動するようになってきてしまいした。
 今回のキャンプでは、一人ひとりの身体と心の安全を確保した上で、様々なリスクにチャレンジしながら肯定的な自己概念を育むことを目的として開発されたプロジェクトアドベンチャーが活動の中心となっていました。そのためお互いがグループの大切な一員としてコミットし安心感を得られるように段階的にプログラムが組まれており、その中で皆が少しづつキャンプという場や他のメンバーとの人間関係に慣れて信頼関係ができていく中で、彼女をおいてきぼりにして進めるわけにはいきません。それは恐く、良くも悪くも彼女が日常の世界で体験してきたことの再現ではないかと思えたからです。スタッフも、また他のメンバーたちも、少しでもTちゃんが安心して過ごせるためにどうすれば良いか、これまでのパターンとは違う体験をしてもらえないかと彼女に対して何かしらかかわりを持ちたいと願ったのですが、結果的に受け止めてもらえたとは感じられませんでした。
 Tちゃんが、まだ十数年の人生の中で、人とのかかわりにおいて回避的にならざるを得なくなった、別の言い方をすれば、真直ぐかかわることは傷つくことだとか拒否されることだと学んでしまった故の反応だとすればそこには本当に根深いものがあります。親子関係を軸とした日々の些細なことの積み重ねが人生における人とのかかわりのあり方を作っていくということの大きさを改めて感じました。

(関西学院大学社会学部 専任講師 川島惠美)

TSU・NA・GI第2巻第6号(2000/9/20発行)より