TSU・NA・GI

●"Do Communications!" 1 〜気持ちを言葉に出来ない〜

 いま、子どもたちは、自分の気持ちを表現することが、とても下手になっていると、スクール・カウンセラーをしている私の友人が話してくれました。中でも男子の中学生は、自分の気持ちを言葉にできないで、抱え込んでしまう傾向が強いと。中学校で相談を受けていても女子は、言葉でのやりとりが成立しやすいけれども、男子はなかなかうまくいかないというのです。
 いままで、とてもいい子だったのに、突然に口も利かず、何も言ってくれなくなる。そして、学校へ行かなくなったり、部屋にこもったりし始める。
 お母さんが、様子がおかしいので、どうしたのとたずねても、「べつに」とか「なんでもないよ」としか答えない。それでも、しつこく聞くと、「うるせぇなぁー」という言葉が返ってくる。お母さんは、おろおろするばかりで、手のつけようがない。そんな経験はありませんか。
 あわてて、忙しいお父さんとなんとか相談をして、子どもと話しをする。これから「あなたなどうするの」と問い詰めると、学校へ行くよとか、勉強をするからと約束をするのです。親は安心していると、突然に家出をしてしまう。行き先は、ゲームセンターや友だちの家。なんとか親の期待に応えようとするのですが、しんどくなる。応えられない、そして敵前逃亡のように姿を隠すことで切り抜けようとするのです。
 親は、子どものために良かれと思って、少し引っ張り上げなければと努力をします。「あなたはこうするのが一番いいのよ」「あなたのために準備をしておいたから」「こうしなければダメよ」「できないのは、努力が足りないから」というようなメッセージをいっぱい投げかけているのではないでしょうか。これでは、リードをしているつもりが、逆に頭をたたいていることになるのです。
 子どもは、自分の考えや気持ちをつかんで、自分のペースで動こうとしている時期です。本人にも、自分の感覚やペースをとらえきれないで、不安定になっている時期なのです。親がリードしすぎることは、不安定な子どもの心に不法侵入し、子ども自身がつかむチャンスを奪っていることになるのです。

(聖マーガレット生涯教育研究所 主任研究員 長尾文雄)

TSU・NA・GI第1号(1999/11/20発行)より